修復事例

repair cases

損傷、劣化、表装の種類によっては、修復方法が異なります。
掛軸と額の修復事例をご紹介します。

事例1 掛軸の本格的な修復 紙本墨書/掛軸装

修復前全体

修復後全体

状態

  • 掛軸全体が経年の塵埃により汚れていた。
  • 表装裂(ひょうそうきれ)が色あせていた。
  • 本紙に汚れ染みや手の平痕などが付着していた。
  • 掛軸全体に横折れや皴が生じていた。

修復方針

掛軸を解体して本格的な修復を行う。表装裂も似た雰囲気の新たな裂に取り換える。

処置

作品の構造や組成、損傷状態の調査記録を行った。修復前の状態を撮影して記録した。

本紙と表装を分離した。

画面にドライクリーニングを行い、表面の汚れを除去した。
虫糞などの付着物を除去した。
墨字部分と朱印に剥落止めとして、膠水溶液を塗布した。

本紙全体にウェットクリーニングを行った。
本紙を精製水で湿らせた吸い取り紙で挟み、クリーニングを行った。吸い取り紙に汚れを吸着させ、全体の水染みなどの汚れを軽減した。吸い取り紙を取り替えて、同様に数回クリーニングを行った。

旧裏打ち紙を剥がして、本紙だけにした。

新たに肌裏打ちを行った。

掛軸としての柔らかさを出すための増裏打ちを行う。接着力の弱い古糊を使うため打ち刷毛で打って圧着させる。美栖紙と古糊を使用。

きつい横折れが生じていた箇所に、細い帯状の紙を接着して補強した。

本紙のまわりに裂を付けて、掛軸に仕立てた。

掛軸としての強度と柔らかさを整えた。

掛軸の最後の裏打ち。

欠失部分に本紙の紙に対して違和感のないように色味調整を行った。

軸、八双、紐などを付けて、掛軸に仕立てた。

所見

作品全体の汚れや染みは軽減され、横折れも無くなり、画面全体が明るくなりすっきりした。汚れは軽減だけに留めた。無理な漂白などの処置を行うと、作品自体に大きな負担が掛かり、今後の劣化を促進させるような影響を及ぼす可能性があるので、処置はなるべく負担が掛からない程度で抑えた。

使用した材料

肌裏打ち紙:薄美濃紙(長谷川聡制作 大子那須楮手漉き楮紙)
増裏打ち:美栖紙(上窪正一制作 胡粉入り土佐楮手漉き楮紙)
総裏打ち:宇陀紙(福西弘行制作 吉野楮白土入り手漉き楮紙)

接着剤

剥落止め:膠
肌裏打ち:生麩糊(小麦澱粉糊)
増裏打ち、中裏打ち、総裏打ち:古糊(10年寝かせた生麩糊)

事例2:額装の本格的修復 絹本着色/扁額装

修復前裏面

修復後裏面

状態

  • 額、本紙全体が経年の塵埃が溜まり、かなり汚れていた。
  • 本紙の絹地、縁、裏面、下貼りの紙が劣化により脆弱化して、茶褐色に変色していた。

修復方針

額を解体して本格的な修復を行う。新たに額を新調する。

処置

作品の構造や組成、損傷状態の調査記録を行った。修復前の状態を撮影して記録した。

本紙と表装を分離した。

画面にドライクリーニングを行い、表面の汚れを除去した。
虫糞などの付着物を除去した。
墨字部分と朱印に剥落止めとして、膠水溶液を塗布した。

本紙全体にウェットクリーニングを行った。
本紙を精製水で湿らせた吸い取り紙で挟み、クリーニングを行った。吸い取り紙に汚れを吸着させ、全体の水染みなどの汚れを軽減した。吸い取り紙を取り替えて、同様に数回クリーニングを行った。

旧裏打ち紙を剥がして、本紙だけにした。

新たに肌裏打ちを行った。

増裏打ちを行い、本紙を補強した。

骨に異なる工程で8層の紙を貼って、保存性と強度のあるパネル装を作成した。

下貼りパネルに本誌を貼り込んだ。
本紙のまわりに縁裂、裏面に裏貼り紙を貼った。

パネル装に額縁、紫外線カットアクリル板などを装着して仕上げた。

所見

作品全体の汚れや染みが軽減されて、画面全体が明るくなり、すっきりとした。
紫外線カットアクリル板装着したことで、大気や光による影響を抑えることができた。

使用した材料

紙・裂

肌裏打ち:矢車染め薄美濃紙(長谷川聡製作 大子那須楮手漉き楮紙)
増裏打ち:八女楮紙(溝田義秋製作 八女楮手漉き楮紙)
下貼り:八女楮紙(溝田義秋製作 八女楮手漉き楮紙)
    泥(タルク)入り楮紙(大勝敬文製作 手漉き楮紙)
裏貼り(裏面):藍紙(藍染め楮紙)

接着剤

剥落止め:膠
肌裏打ち、増裏打ち:生麩糊(小麦澱粉糊)

パネル

杉材骨組子