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日本画や書の作品の多くは、主に「紙」や「絹」などの繊細な素材に描かれています。そのままの状態では取り扱いが難しいため、裏面に紙を数層貼って(裏打ち)補強し、鑑賞できるように「表装」が行われるようになりました。
こういった表装作品は、およそ100年の間隔で修復や仕立て直しが繰り返され、現代まで大切に受け継がれています。
保管と修復を繰り返し行えるようにするためには、様々な配慮が必要です。
たとえば、修復作業の中には、以前の裏打ち紙を剥がす工程があります。この作業ひとつとっても、以前の作業時の精度や材料への配慮が重要になってきます。なぜなら、保管されている間は丈夫でなければなりませんが、修復されるときには綺麗に剥がれなければならないからです。
伝統的な修復方法の基本方針には“次に処置するときに除去できる可逆性のある材料を使用する”ということがあります。伝統の技術は、作品にできる限り負担をかけないための工夫と、次の修復時への配慮に満ちているのです。
近年、生活の利便性が追求される時代の流れから、手間のかかる伝統技術や処置法は失われつつあります。美術品の修復も薬品の使用(漂白剤等)などにより、簡易的な方法で行えるようになりました。しかし、そこで使用される材料(接着剤等)には可逆性がないため、今後修復した際に作品の受けるダメージが大きくなる可能性があります。
確かに、伝統的な方法では新品同様の綺麗な仕上がりにはなりません。しかし、受け継がれてきた作品を、さらに100年後まで遺し伝えたいと考えれば、作品そのものの負担が小さく済むような処置と材料を選択することが、何よりも大切だといえるのです。
襖、屏風、扁額の構造は、パネル装に本紙(絵や書)が貼られ、その周りを台紙や表装裂で飾り、縁が装着されています。特に伝統的なパネル装の構造は、杉材の骨(木の骨組)に何層(7~8層)の和紙を工程ごとに違う方法で貼ります。これを「下張り」といいます。その上に本紙を貼ります。
下張りの役割は、骨に歪みが生じないように補強して、パネル自体に強度を持たせること。
骨と本紙の伸縮の差を吸収する緩衝材として、裂けの損傷をくい止める、骨から出る脂(やに)を吸収するなど。
また、紙の層でできていますので、大きさの割には軽量で、動かす(移動・稼働)ことが容易です。
四季の温度湿度の変化を上手く緩和して、本紙に大きな負担を掛けさせないための創意工夫が施されています。
日本画・書の作品は、とても繊細です。それゆえに、どのような処置を行えばよいのかわからなかった、ということもあるのでしょう。しかし、不適切な修復が行われてしまうと保存状態が悪化し、ゆくゆくは作品自体に影響を及ぼしてしまいます。
一見すると不自然ではないが…(写真 左)。
中央にいくつか穴が空いていて、裏にするとそれを塞ぐために大きな黒い紙が貼ってあった(写真 右)。
穴を塞ぐために裏からボール紙を貼っている。
裏打ち紙は粗悪な紙のため、酸化して茶色く変色し、紙のしなやかさがなくなって折れてしまう状態だった。